大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所四日市支部 平成6年(ワ)302号 判決 1999年5月28日

原告

中村末春

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

在間正史

野呂汎

原田彰好

被告

南松ケ島漁業協同組合

右代表者組合長兼理事職務代行者

伊藤好之

主文

一  被告の平成六年七月一九日開催の臨時総会における別紙記載の第二号決議が無効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、被告の准組合員である原告らが、被告の平成六年七月一九日開催の臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)において可決された長良川河口堰建設に伴う漁業損失補償の関する別紙記載の各決議(以下「本件各決議」といい、右各決議のうち、第一号決議を「本件一号決議」と、第二号決議を「本件二号決議」と、第三号決議を「本件三号決議」という。)のうち、第二号決議の内容が法令に違反するものであるとして、右可決決議が無効であることの確認を求めている事案である。

一  基礎となる事実(1の事実は、甲第五、第三四号証及び弁論の全趣旨により認められ、2及び3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。)

1  (当事者)

被告は、組合員の経済的、社会的地位を高めることを目的として昭和四八年二月一六日に設立された水産業協同組合法所定の漁業協同組合であり、原告らは、いずれも被告の准組合員である。

2  (仮処分決定)

当庁は、平成二年五月一八日、債務者である訴外中村力次郎に対し被告の組合長兼理事としての職務を執行すること、同佐藤近史、同山口等及び同加藤良雄に対し理事としての職務を執行することをそれぞれ停止し、同被告に対し右各訴外人に右各職務を執行させることを停止するとともに、組合長兼理事職務代行者伊藤好之並びに理事職務代行者早川忠宏、同杉岡治及び同尾西孝志の合計四名の職務代行者(以下、この四名を併せて「本件職務代行者ら」という。)を選任し、右執行停止期間中、右職務代行者らをしてその職務を代行させ、右職務代行者らが常務外の行為をするについては裁判所の許可を要する旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした(当庁平成元年(ヨ)第六七号、同二年(ヨ)第六号)。

3  (本件臨時総会の開催)

被告は、平成六年六月二八日、左記の付議事項(以下「本件各議題」といい、右各議題のうち、第一号議題を「本件一号議題」と、第二号議題を「本件二号議題」と、第三号議題を「本件三号議題」という。)の決議を目的とした臨時総会を開催することの許可を当庁に求め、右許可を得た上、同年七月一九日、本件臨時総会を開催した。

第一号 長良川河口堰建設事業の施行に伴う一切の漁業損失補償について補償契約を締結する件(本臨時総会で議決承認後、速やかに補償契約を締結する。)

第二号 漁業補償に関する一切の権限(交渉、妥結及び契約、補償金の請求及び受領、復代理人の選任)を委任する件

第三号 配分基準を決定する件

被告は、本件臨時総会において、本件各決議が有効に成立したものである旨主張している。

二  争点

本件の争点は、本件二号決議の内容が法令に違反するものであるか否か、すなわち、本件二号決議が本件仮処分決定に違反して代表者によらずに代表行為をすることを可能とするものとして違法であるか否かであり、争点に関する各当事者の主張は以下のとおりである。

(原告らの主張)

1 本件仮処分決定においては、被告代表者として組合長兼理事職務代行者が選任され、さらに理事職務代行者らも選任され、また、右代行者らが常務外の行為をするためには、裁判所の許可を受けなければならないとされたものであるが、その趣旨は、被告の常務外の行為である水資源開発公団との漁業損失補償問題を、補償契約の締結から補償金の分配に至るまで裁判所の監督下に置き、その適正を図ることにあるというべきである。

2 しかるに、本件二号決議は、本件職務代行者らではない者に、右漁業損失補償契約の締結等を委任するものであり、裁判所が、組合長兼理事職務代行者の行為に対する許可というかたちで漁業損失補償の監督を行うことを回避、排除する結果となるものである。

このように、本件二号決議は、被告の代表行為を代表者によらずになすことを許容するものであり、本件仮処分決定(ないし水産業協同組合法四四条、商法二六一条)に違反するものとして無効である。

なお、本件臨時総会の開催及び「漁業補償に関する一切の権限(交渉、妥結及び契約、補償金の請求及び受領、復代理人の選任)を委任する件」の議決については、事前に裁判所の許可がされているけれども、実際に本件臨時総会において提案、議決された本件二号決議は、本件職務代行者ら以外の者の被告の代表行為を委任し、同人らによらずに漁業損失補償に関する契約等をすることを可能ならしめる内容であるから、前記本件仮処分や裁判所の許可の趣旨を潜脱するものとして違法である。

(被告の主張)

1 原告らの主張は争う。

2 本件二号決議のうち、本件職務代行者らに代表行為を委任している点については、法令上何ら問題がなく、同決議全体を無効とする理由はない。

また、本件二号決議が本件職務代行者ら以外の者に代表行為を委任している点についてみても、そもそも組合長ないし理事が特定の行為の代理を他人に委任することは法令上認められているのであり(水産業協同組合法四四条、民法五五条)、本件二号決議は、被告の最高意思決定機関である総会が組合長に代わって特定行為の代理を他人に委任したものであると解釈することが可能であるから、このような前提に立つと、その内容が法令に違反するとまでは言えない。

第三  当裁判所の判断

一  認定事実

1  前記基礎となる事実に、甲第一、第三、第四、第三四号証、乙第一ないし第一〇号証、第一六ないし第二一号証及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件職務代行者らは、平成六年六月二四日、当時被告の正組合員として認められていた三十数名のうち、中村力次郎外二八名の者(なお、当庁に係属していた別件の訴訟〔当庁平成二年(ワ)第二〇七号地位不存在確認等請求事件、以下「別件訴訟」という。〕においては、右の者らのうちの大部分の者の被告組合員としての地位の有無が争点とされていたが、本件においては、右の者らの被告組合員資格の有無は、各当事者において争点とはされず、かつ、本結論を左右しないので、その判断をしない。以下、本件臨時総会の当時被告組合員ないし准組合員として認められていた者は全て「被告組合員」と表現する。)から、長良川河口堰建設に伴う水質資源開発公団との漁業損失補償の問題を速やかに解決し、被告組合員の生活再建を図るためとして、本件各議題の決議を目的とする被告臨時総会を二〇日以内に開催するよう書面による請求を受けた。

被告定款三八条二項二号、三項によれば、被告の正組合員がその五分の一以上の同意を得て、会議の目的とする事項及び招集の理由を記載した書面を理事に提出して招集を請求したときは、理事は、右請求のあった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならないとされていたため、本件仮処分決定により、組合長理事に代わりその職務の代行するものとされ、また、常務外の行為を行うについては当庁の許可を要するものとされていた組合長兼理事職務代行者は、平成六年六月二八日、当庁に対し、同年七月一四日までに本件各議題の決議を目的とする被告臨時総会を開催することの許可を求め、同年六月二九日、右開催の許可を受けた。

そこで本件職務代行者らは、平成六年七月一一日に被告臨時総会を開催することとし、同年六月三〇日付で各被告組合員に対して、会議の目的たる付議事項(本件各議題)を記載した書面をもって臨時総会の開催を通知した。

(二) 平成六年七月一一日、南松ケ島教育集会場において、被告臨時総会が開催された。被告組合長兼理事職務代行者は、出席した中村力次郎外三三名の被告組合員(本人出席二二名、代理委任出席一二名)に対し、右(一)の臨時総会が開催されるに至った経緯を説明した上、右出席者全員の賛成を得て、被告臨時総会の議長に就任した。

そこで、被告組合長兼理事職務代行者は、本件各議題の審理に入ろうとしたが、その当時、別件訴訟において右出席者らの一部の者の被告組合員資格が争われていたため、出席者の組合員資格の確定が先決であるとする意見と、本件各議題の審理を進めるべきであるとする意見とが述べられ、審理をそのまま進行することについての出席者全員の合意が得られなかった。また、本件職務代行者らは、出席者らに対し、①組合員資格の認定は裁判所の権限に属し、職務代行者らはその任にないこと、②当日の出席者のうちの一部の者の組合員資格の有無について裁判所において事件が係属中である以上、当臨時総会において、多数決によって何事かを決することは適当ではないことの認識を示した上、本件各議題を出席者全員一致で賛成できる議案に修正することができないかを諮った。

すると、右臨時総会に出席していた被告組合員の大多数の者は、本件職務代行者らに対し、直ちに本件各議題の審議に入るよう強く要請したものの、出席者らのうち原告中村幹夫外二名の者から、一週間程度の猶予を与えられれば、何らかの代替案を提示することができるかもしれない旨の申入れがあったため、議長である被告組合長兼理事職務代行者は、右申入れを出席者らに諮ったところ、全員一致の賛成が得られたため、続行期日を平成六年七月一九日午後六時三〇分とする旨決定して、本臨時総会を散会した。

(三) 平成六年七月一九日、長島町役場において本件臨時総会が開催され、中村力次郎外三一名の被告組合員(以下「本件出席者ら」という。)が出席した(本人出席二四名、代理委任出席八名、なお、原告伊藤昌幸は代理委任出席であった。)。そこで、前記同月一一日の被告臨時総会(以下「前回臨時総会」という。)において議長に選出されていた被告組合長兼臨時職務代行者は、本件出席者らに対し、総会の続行を宣しようとしたところ、中村力次郎から、議長解任の緊急動議が提出されたため、被告理事職務代行者早川忠宏を仮議長に指名した。

そこで、仮議長が本件出席者らに対し、右議長解任の動議につき討論を許可したところ、被告組合長兼理事職務代行者は前回臨時総会において議長として予定議案(本件各議題)の審理を進めるべきであったのにこれをしなかったこと、及びあくまで被告組合員自身が議長を務めるべきであることなどを根拠として右動議に賛成する者と、被告組合長兼事務代行者が行った前回臨時総会の進行は妥当なものであり、別件訴訟において本件出席者らの大多数の組合員資格が争われている現在、多数決でことを運ぶのは妥当でないことなどを根拠として右動議に反対する者との意見が対立したが、採決をした結果、賛成者多数(賛成二八名、反対三名、棄権一名、なお、本件出席者らのうち、別件訴訟において被告組合員資格が争われていない七名の中でも四名が右動議に賛成した。)により右議長解任の緊急動議は可決された。

そこで、仮議長は、本件出席者らに対し、議長の選任手続に入る旨宣してその自薦、他薦を募ったところ、佐藤近史、被告理事職務代行者早川忠宏、佐藤幸助及び桃崎正良の合計四名が議長候補に上がったため、本件出席者らの挙手によってこれを採決することとし、その結果、佐藤幸助を議長とすることに賛成する者が過半数(二四名、なお、本件出席者らのうち、別件訴訟において被告組合員資格が争われていない七名の中でも四名が佐藤幸助を議長とすることに賛成した。)となったことから、同人が議長に選任された旨宣した。

右のように議長に選任された佐藤幸助(以下「議長」という。)は、本件出席者らに対し、左記の決議案(以下「本件各議案」といい、右各議案のうち、第一号議案を「本件一号議案」と、第二号議案を「本件二号議案」と、第三号議案を「本件三号議案」という。)が記載された書面を示した上、本件一号議案を議題とすることを宣して、これについて討論することを命じた。

第一号 長良川河口堰建設事業の施行に伴う一切の漁業損失補償について補償契約を締結すること(本臨時総会で議決承認後、速やかに補償契約を締結する。)

第二号 漁業補償に関する権限(交渉、妥結及び契約、補償金の請求及び受領、復代理人の選任)を次の者に委任すること

① 組合長兼理事職務代行者

② 組合長兼理事職務代行者が不都合なときは、両グループの代表(中村力次郎、桃崎正良)

第三号 配分基準を決定すること

① 両グループの配分 (別添1)

② 二七名グループの配分基準と比率 (別添2)

③ 七名グループの配分基準と比率 (別添3)

このとき、本件職務代行者らは、本件出席者らに対し、別件訴訟の判決によって本件出席者らの被告組合員資格の有無が形成されるわけではなく、もともとの資格の有無が確認されるのであるから、「判決で組合員資格が否定されるまでは本件出席者らの被告組合員資格があるものと考えること」は妥当でないこと、また、本件職務代行者らは被告の常務に属しない事柄を執行する権限を有しないから、本件一号議案が可決されたとしても、被告の常務の属しないことが明白な水質源開発公団との漁業損失補償契約の締結等は、裁判所の許可がない限りこれを執行することは法的に困難である旨説明した。そして、本件一号議案については、後で法的に無効になるおそれもあり、強引に数で押し切るのはよくないとして、これに反対する者と、このまま徒に時が過ぎると長良川河口堰が完成し、漁業損失補償問題自体が立ち消えになるおそれがあるから、速やかに補償契約を締結すべきであるとして、これに賛成する者との意見が対立したが、採決をした結果、賛成者多数(賛成二七名、反対三名、棄権一名、なお、右のとおり議長に就任した佐藤幸助は、この議決には加わらなかった。)により、本件一号決議のとおり可決された。

次に議長は、本件出席者らに対し、第二号議案の審議に入ることを宣言したが、このとき、本件出席者らのうち原告中村末春、同中村幹夫及び加藤良雄の三名が右のような議事進行は不当であるとして、本件臨時総会の会場から退出した。

その後、中村力次郎から、本件二号議案の「委任」の名宛人(受任者)に、本件職務代行者ら四名全員を入れないのは適当でないこと、及び被告組合内で利害の対立する両グループの代理人弁護士を入れた方が良いことなどを理由として、右名宛人を本件職務代行者ら四名、弁護士伊藤宏行、同岡本弘、中村力次郎、加藤明、桃崎正良及び伊藤貢の合計一〇名としたい旨の動議がなされ、また、本件二号議案と併せて本件三号議案も審議されたいとの発言がされた。そこで、議長は、本件二号議案に本件三号議案を併合して審理する旨宣言し、その採決をとった。その結果、本件二号議案及び本件三号議案が、右動議をいれて、本件出席者らのうち右退席者三名及び棄権者一名(原告伊藤昌幸)を除く全ての者の賛成を得て、併せて本件二号決議及び本件三号決議のとおり可決された。

その後、中村力次郎から「念のため配分率を読み上げておきたい。」などという発言があり、議長がこれを黙認したため、中村力次郎が、本件各出席者らに対し、別添2「27名グループの補償金配分率表」と題する書面を読み上げるなどの手続を行った後、本件臨時総会は終了した。

(四) 同日、本件職務代行者らが本件臨時総会の会場を退出したあと、本件臨時総会第二号決議によって被告の漁業損失補償に関する一切の権限を委任された一〇名のうち、本件職務代行者らを除く、中村力次郎、加藤明、桃崎正良、伊藤貢、伊藤宏行及び岡本弘の六名(以下「本件交渉委員ら」という。)は、被告代表者として、長島町町長である伊藤仙七立会のもと、直ちに水質源開発公団との間で長良川河口堰建設事業に伴う漁業損失補償についての協議に入り、その結果、左記の確認事項を合意するに至り、その旨記載した確認書(甲第四号証、以下「本件確認書」という。)を作成して取り交わした。

第一  長良川河口堰建設事業に伴う全ての漁業損失補償金は総額一億七一〇〇万円であること

第二  前項の補償金総額から、昭和六三年三月三一日付工事中の補償契約書に基づき支払済みの工事中の漁業損失補償金一〇〇〇万円を控除した一億六一〇〇万円については、被告と水質源開発公団とは速やかに補償契約を締結すること

第三  被告は、水質源開発公団が前項の補償金を支払うことをもって、長良川河口堰建設事業に伴う漁業損失補償が全て解決したものとすること

翌平成六年七月二〇日、中村力次郎、加藤明、桃崎正良及び伊藤貢は、被告組合長兼理事職務代行者の事務所を訪れ、組合長兼理事職務代行者に対し、水質源開発公団との間で本件確認書を取り交わしたことを報告した上、①被告組合員の中には高齢者や病人もいるため、早期の問題解決を図る必要があること、②水質源開発公団は、平成七年三月を経過すれば損失補償をしないと述べていること、③別件訴訟の判決により、被告において組合員資格を有する者が二〇名を下回る旨判断されたときは、被告は組合として認められなくなり、水質源開発公団からの補償金も受け取れなくなることなどを根拠に、被告は即刻、水質源開発公団と損失補償契約を締結し、補償金を受領する必要があるなどと主張して、早急に裁判所からの許可を得た上で右損失補償契約を締結するよう促すとともに、本件職務代行者らがこれに応じない場合には、本件交渉委員らが独自に水質源開発公団と損失補償契約を締結して補償金を受領し、これを被告組合員に分配する旨通告した。

(五) 平成六年七月二一日、本件職務代行者らは、水質源開発公団長良川河口堰建設所所長である宮本博司、前記長島町町長、及び本件交渉委員らに対し、本件交渉委員らが、本件職務代行者らに代わって水質源開発公団との漁業損失補償契約を締結したり、補償金を受領することには法的に疑問があることを留保した上で、慎重に対応するよう求める通知書(乙第六号証)を発するとともに、同月二六日、当庁に対し、本件臨時総会において可決された本件各決議を執行することの許可を求めた。

一方、本件交渉委員らは、同月二一日、被告代表者として、水質源開発公団との間で長良川河口堰建設事業の施工及びこれによって生じる施設の管理運営(同事業によって開発する22.5立方メートル毎秒の取水及び堰軸を中心に上流三〇〇メートルと下流三五〇メートルの区間の漁業操業制限区域の設定を含む。)に伴う漁業損失の補償に関する契約(以下「本件補償契約」という。)を締結するに至り、漁業損失補償金合計一億六一〇〇万円を受領して被告組合員に分配することとした(ただし、本件補償契約の具体的内容については、本件全証拠によってもこれを明らかにすることはできない。)。

そこで、本件職務代行者らは、同年八月一日、水質源開発公団に対し、本件補償契約の締結には、本件交渉委員らの被告代表権の有無などに関して法的な問題がある旨指摘した上で、右契約の具体的内容や補償金の支払方法、本件交渉委員らに被告代表権があると判断した根拠などについて照会する旨の内容証明郵便(乙第八号証)を発した。これに対して、水質源開発公団は、同月五日、本件職務代行者らに対し、本件補償契約締結の経緯の説明及びその具体的内容については被告組合員に照会されたい旨の書面(乙第二一号証)を発して右照会に回答した。

2 以上の認定に対し、原告らは、本件二号決議に関して、同決議は本件二号議案の委任の順位と枠組みを変更するものではなかったとして、右決議における第一次的な委任の名宛人(受任者)は本件職務代行者らであり、本件交渉委員らは、本件職務代行者らに差支えがある場合における第二次的な委任の名宛人(受任者)として選任されたものにすぎない旨主張するかのようである。

しかしながら、本件臨時総会に立ち会った本件職務代行者ら作成にかかる本件臨時総会の議事録(乙第二号証)には、本件二号議案に関する議事進行については、中村力次郎から「第2号議案で委任の名宛人は、職務代行者ら・弁護士伊藤宏行・同岡本弘・中村力次郎・加藤明・桃崎正良・伊藤貢の10名とする」旨の動議が出され、これが賛成多数により可決された旨の記載があるのみで、右委任の順位に関する決議がされた旨の記載は全くない。

そして、前記認定のとおり、原告ら三名のうち、原告伊藤昌幸本人は、本件臨時総会には出席せず、また、中村末春及び中村幹夫は、本件臨時総会において本件二号決議がされたときには、既に同総会を退席していて右決議には立ち会っていなかったのであり、しかも、乙第二、第八、第一八、第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、中村力次郎及び桃崎正良は、平成六年八月一日、本件臨時総会で可決された本件第二号決議においては、委任の名宛人(受任者)は「①本件職務代行者ら四名、②本件職務代行者らが不都合なときは両グループの代表(本件交渉委員ら)」とされたものであり、本件臨時総会の進行状況を録音したカセットテープが存在するとして、本件職務代行者らは、右申入れは、現実の議決内容に合致しない誤った措置であると考えてこれを拒否したこと、また、本件職務代行者らは、同日、水質源開発公団が本件二号決議を「(本件職務代行者ら、伊藤宏行、岡本弘、中村力次郎、加藤明、桃崎正良及び伊藤貢の)一〇名の者に委任するも、本件職務代行者ら四名が受諾しないときは、その余の六名(本件交渉委員ら)に委任した」ことをその内容とするものであると解して本件交渉委員らとの間で本件補償契約を締結したとの内容の新聞報道等の情報を得たため、水質源開発公団に対し、本件臨時総会において右のような決議はしていない旨内容証明郵便をもって通知していること、同月三日、桃崎正良は、右録音テープの提出を求めた本件職務代行者らに対し、「テープの所在がわからない。」旨回答してこれに応じなかったことなどがそれぞれ認められ、このような本件臨時総会後の事実経過をも併せ考慮すれば、原告らの右主張は、未だ採用することができない。

二 以上の認定事実を前提に、本件二号決議が適法なものであるか否かを検討する。

1(一)  右認定の事実によれば、本件臨時総会に出席した被告組合員は、当初議長を務めていた裁判所選任にかかる組合長兼理事職務代行者を緊急動議により議長から解任し、本件二号議案についても緊急動議によってその内容を本件二号決議のとおり変更した上でこれを可決したものであり、同決議は、本件仮処分決定において選任された本件職務代行者らによらずに、本件交渉委員らのみによって、被告の漁業損失補償に関する代表行為(水質源開発公団との間の交渉、契約、補償金の請求及び受領等)を行うことを可能ならしめるものであり、現実に、中村力次郎、加藤明、桃崎正良、伊藤貢、伊藤宏行及び岡本弘の六名の本件交渉委員らは、本件臨時総会直後、本件職務代行者らが知らないうちに、水質源開発公団との間で、漁業損失補償金の支払に関する合意をするに至り、その二日後には、本件補償契約を締結し、補償金を受領してこれを被告組合員に分配するなど、本件職務代行者らを無視したかたちで、その意思を離れて被告代表者として第三者(水質源開発公団)との間で被告の漁業損失補償に関する一切の行為を行ったことが認められる。

(二)  ところで、被告の定款(甲第三四号証)三〇条によれば、組合長は、この組合を代表し、理事会の決定に従って業務を処理するものと定められ、被告の代表行為は組合長が行うものとされている。そして、当庁は、被告の組合員資格につき疑義がある中村力次郎、佐藤近史、山口等及び加藤良雄が被告代表者若しくは理事として職務を執行するならば、被告に回復し難い損害が発生するおそれがあるとして、その職務執行を停止し、本件職務代行者らをして、右執行停止期間中の被告代表者若しくは理事の職務を代行させ、かつ、右代表者らが常務外の行為をするについては裁判所の許可を要する旨の仮処分決定を発令したものであるが、本件仮処分決定は、被告の代表権を有する者を組合長兼理事職務代行者とし、その常務外の行為(とりわけ、水質源開発公団との漁業損失補償契約及び同公団から受領した補償金の分配)を、組合長兼理事職務代行者に対する許可という形で、すべからく裁判所の監督下に置き、その適正を図ることをその目的としていたものであると言うべきである。しかるに本件二号決議は、右に説示したとおり、組合長兼理事職務代行者の意思、行為を離れて、本件交渉委員らをして、被告代表として第三者との間の対外的行為を行うことを可能ならしめるものであるから、本件仮処分決定の趣旨に反するものと言わなければならない。

以上の認定、説示に、組合長兼理事職務代行者は、本件交渉委員らや水質源開発公団、長島町に対し、再三にわたって本件二号決議の法的効力の有無については疑義がある旨通知し、慎重な対応をするよう警告していた(乙第六、第八ないし第一〇号証)にもかかわらず、前記認定のとおり、中村力次郎、加藤明、桃崎正良、伊藤貢、伊藤宏行及び岡本弘の六名の本件交渉委員らが、組合長兼理事職務代行者の意思を離れて、長島町町長立会のもと、水質源開発公団との間で本件補償契約を締結し、漁業損失補償金が被告組合員に分配されてしまった事実経過をも併せ総合すると、本件二号決議の内容は、本件仮処分決定に違反して代表者によらずに代表行為をすることを可能とするものとして違法であると言わざるを得ない。

確かに、前記基礎となる事実のとおり、裁判所が本件各議題を付議事項とする被告臨時総会の開催を許可したという事実はあるけれども、本件仮処分決定の趣旨からすると、右の許可にあたっては、本件二号議題における「委任」の名宛人(受任者)としては、当然に裁判所が選任した組合長兼理事職務代表者を予定していたものというべきであり、それ以外の者(特に、本件仮処分決定において、被告組合長ないし理事としての職務執行を停止されていた中村力次郎、佐藤近史、山口等、加藤良雄)に対して漁業損失補償に関する被告の代表行為を委任する旨の決議をすることは厳に禁じられていたものと言うべきである。

以上検討してきたところによれば、本件二号決議の内容は違法と言うほかなく、同決議は無効と言うべきである。

2(一)  なお、被告は、本件二号決議のうち、本件職務代行者らに対外的行為を委任している点については、法令上何ら問題がなく、同決議全体を無効とする理由はない旨主張するけれども、前説示のとおり、本件二号決議は、本件職務代行者らを、本件交渉委員らに優先して第一次的な委任の名宛人(受任者)とする旨の委任の順位に関する議決はないし、また、本件交渉委員らが、本件職務代行者らと共同してのみ被告を代表することができる旨のいわゆる共同代表(商法二六一条二項参照)に関する議決もないのである(前記認定の本件臨時総会議事録中の本件二号議案の審理手続に関する記載内容及び本件臨時総会後の事実経過に鑑みれば、本件二号決議において、本件委任の各名宛人〔受任者〕が、共同してのみ被告を代表することができる旨の共同代表の定めが存在しなかったことは明白である。)から、本件二号議案は、その全体として、組合長兼理事職務代行者によらずに、本件交渉委員らのみによって被告の代表行為をすることを可能とする内容のものであり、被告が主張するように、本件二号決議のうち本件職務代行者らに行為を委任する部分のみを取り上げて、その適法性を判断するのは妥当ではない。

被告の右主張を採用することはできない。

(二)  また、被告は、そもそも組合長理事ないし理事が特定の行為の代理を他人に委任することは法令上も認められている(水産業協同組合法四四条、民法五五条)のであるから、本件二号決議は被告の最高意思決定機関である総会が組合長に代わって特定行為の代理を他人に委任したものであると解釈すれば、その内容が違法とは言えない旨主張する。

しかしながら、仮に被告が、総会決議をもってすれば、自由に組合長兼理事職務代行者以外の者にも代表行為の委任をなし得るものとした場合、組合長兼理事職務代行者に対する許可というかたちで水質源開発公団との漁業損失補償契約等の被告の常務外の行為をすべからく裁判所の監督下に置いてその適正化を図るという本件仮処分決定の趣旨は没却される。

本件仮処分決定がされた後は、被告の代表権は、組合長兼理事職務代行者にあり、総会において、被告組合員が組合長兼理事職務代行者に対する支持の意思表明のため、漁業損失補償に関する一切の権限を同人に与えて委任する旨の決議をすることは何ら差し支えないが、組合長兼理事職務代行者以外の者にこれを委任することは許されないと言うべきである。とりわけ、本件仮処分決定においては、被告を名宛人(債務者)として、本件交渉委員らの一人である中村力次郎について組合長兼理事としての職務を執行させること自体を禁止しているのであるから、被告の(最高であるとしても)意思決定機関にすぎない総会が、本件仮処分の趣旨を無視して、右の者を受任者として選任する決議を行うことが許されないことは自明のことと言わなければならない。

被告の右主張も、採用することができない。

三 結論

以上によれば、原告らの本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前原捷一郎 裁判官大工強 裁判官堀田次郎)

別紙<省略>

別添1〜3<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例